夕日ヶ浦で蟹道楽

年に一度の蟹尽くしの贅沢三昧。今年は夕日ヶ浦温泉にきた。


学んだこととしては蟹の値段は変動が大きく、消費需要が盛り上がる年末年始より11月中のほうが安く安定している。そして日本海沿いにあっても大口旅館だと冷凍蟹を使っていたり、さもなくばかなり値が張る。そんなわけで嫁さんが民宿を探してくれた。今回の狙いは活き蟹。


食事の前に部屋に宿の経営者夫婦が活きた蟹を持ってきてくれた。十六齢はあろうかという大きく重たい蟹。相変わらず酷くグロテスクな風貌だが、これが旨いのだから仕方がない。もし美味ならば蜘蛛だろうと人間は食べるのだろう。


そして長い宴の始まり。舟盛りにはホウボウ、ハマチ、カワハギ、イカ、サザエなどの刺身。そこにまずは蟹の脚の刺身。味は伊勢海老の刺身とよく似ていた。弾力の強さと淡白な味だが、そこに滲む旨さはたまらん。



思い出したかのように感心したのが食べ慣れた魚介の旨さ。イカもハマチも珍しくもない常食の魚介だが鮮度と手当てが良いだけで本来ここまで味が濃厚で旨いものか。美味しい魚を食べたければ京都で大枚はたいて上等な料理屋で戴くより、日本海まで足を運べということか。


お次は焼蟹。甲羅の裏の蟹味噌は脚の肉と対照的なコクがある。


さらに茹で蟹。一人一杯巨大な蟹を頂けるのだが、多すぎて食べられないならば持ち帰れるとのこと。手をつけずにクーラーボックスに入れてもらうことに。



さらに蟹しゃぶが続く。勢子蟹で出汁がとられている。脚の身を湯に晒した際に松葉のように開く様が見ていて楽しい。そして何より旨い。活き蟹の真骨頂。



次は意表をついて蟹の天婦羅が出てきた。初めてだ。鋏の肉は衣がついて揚げられていても中はふわふわとしていた。



その後も更に蟹スキが続く予定だったのだが、あまりに食べ過ぎて気分が悪くなるほどだともったいないので豆腐や白瀧や白菜などの具材は全て手をつけずに返上し、蟹肉だけを茹でて蟹雑炊を作ってもらった。これは作戦勝ちした感がある。今まで味わったことのない極上の蟹雑炊となった。何せ蟹肉が混ざっているというより蟹肉と米が等量混ざっているような状態。雑味の無い蟹の濃厚な風味に全体が包まれている。結局二人で五杯のタグ付きの蟹を頂いたことになる。大振りの蟹だったので相当な量だ。




次に来る機会があるならば、次のように我儘な注文をつけたい。脚は全て刺身で出してもらう。それを刺身のままで二、三本、しゃぶしゃぶで十七、八本頂く。甲羅の蟹味噌は両方とも炭火焼きで。そして脚の付け根の肉は食べにくいところでもあるのでしっかり丸ごと出汁をとったあとに身をほぐして蟹雑炊に。美味しい活き蟹だからこそ、多種多彩な食べ方を楽しむより各々の箇所を一番好きな食べ方で味わいたい。


嗚呼。頽廃的美食万歳。