鈴虫寺 華厳寺

参拝後、げんなりと、どす黒い気分になって出てきた。なんとも惨い。高密度な世俗というか、商売熱心と言うか。禅寺だと聞いてさらに暗澹。宗教に絶望しそうだわ。


なんでもここ華厳寺の幸福地蔵はどんな願い事でもひとつ叶えてくれるということで、とりわけ女性誌にも取り上げられる影響からか、縁結びや恋愛祈願の若い人で溢れかえる。ネットで検索すると「やはり鈴虫寺でお願いすると叶うんですね」とか「あそこの成就率の高さは凄いですね」なんて書き込みがいくらでも出てくる。。


入り口の石段には長蛇の列。30分から1時間ほど待って皆、参拝する。幸い午後3時半にもなると15分ほど待つだけで入ることができた。



説法を聞いた後、鈴虫を眺め、寺を拝観し、最後にお守りを購入し幸福地蔵にお願い事をするという流れらしい。お札を返すだけでも、500円の拝観料を払い、説法を聞く手順を踏まないと入れないらしい。


年間を通じて鈴虫の音色が聞こえるとのことで、秋の音色を期待して訪れた。年中鈴虫が鳴くよう、通年飼育に成功したのは二十数年前らしい。至って最近の話だ。常に秋の環境を維持するために、夏も冬も24度に冷暖房を付けっぱなしなのだという。冗談か判断つかない口調で、京都で一番冷房の完備された寺だなどと言っていた。


中を見て唖然。大広間に170人近くを隙間も無いほど入れ、煎茶と菓子が出される。でもこれを茶礼と呼ぶのはどうかね。


広間の前に大きな飼育箱がならんでいるのだが、ひとつの箱に500匹から1000匹ほど入っていると言う。目の前に5000匹から6000匹はいることになる。箱の中は10センチ四方に4,5匹はいるような超高密度。鈴虫は連続して長時間鳴くものではない。そこで絶えず鳴き声が聞こえるように何千匹も集められている。箱の中は糞だらけで、良く見れば羽が畸形のものも死んだものもいる。阿鼻叫喚というか、生き地獄というか。鈴虫の成虫はせいぜい1ヶ月ほどしか生きられないので、奥には出番を待つ数千の幼虫らが生産されている。


客寄せの為に年間6,7万匹の鈴虫を大量飼育し、季節が狂った環境の中で鳴かせ続けているわけだ。蟲と言えど、死を大量生産しているようにしか思えぬ。共食いしないように雄雌の比率を均等にしたり工夫しているんですよなんて得意げに説明していた。命の冒涜ではないのかね。自然の営みへの敬意を感じない。


帰宅後、ホームページを開いたら、説法について「その独特の語り口は「鈴虫説法」と親しまれ、全国から聞きに訪れる参拝者も多い。」と説明されていた。しかし今日、聞いたのは「最近は友近さんが見えられました」だの「お願い事は現実的なことにするのがよいようです。お互いに知りもしない芸能人と結婚したいなんていうのは難しいようですね」などといったくだらないことのほかは殆どがお守りを買ってお願いするようにと言う単なる営業。なんなんだ、ここは。



庭から鈴虫の鳴声が聞こえる風情のある寺かと思い違いをしていた。幾万の鈴虫になんて惨いことを。あんたら、来世は鈴虫寺の鈴虫になれ。生涯を一切外に出ることもなく、衝動的に共食いしかねない過密空間の飼育箱の中から、「説法」をたれるかつての己を見るのだよ。