シャーデンフロイデ 他人の不幸で飯が美味い

シャーデンフロイデとは誰かが失敗した時に、思わず湧き起こってしまう喜びの感情だそうで、「他人の不幸で今日も飯が美味い」「ざまあみろ」というもの。

  • 何故そのような感情をヒトは持つに至ったか
  • それが本能的なイジメにどう結びつくか
  • 人間性や愛情の無条件肯定への警告

へと展開していく

 

 以下、備忘録。

オキシトシンという絆ホルモン、幸せホルモン、愛情ホルモンが妬み感情も強めることが昨今わかってきた。

 

オキシトシンの由来は「迅速な出産」という意味のギリシア語で脳下垂体をすり潰した汁が、陣痛を引き起こすことをヘンリー・デールという人が1906年に発見し命名したのだという。ふんふん、と読み過ごしそうになったが脳下垂体をすり潰した汁を妊婦に摂取させるという状況を想像しようと試みて思考停止。猟奇的。

 

オキシトシンは思考や連想、記憶によっても活性される。また、ラットにおいてはオキシトシンの効果は匂いを通じて群全体に広がるらしい。ヒトも同様かは不明。

 

オキシトシンは人と人との連帯や愛着を形成させる一方で繋がりが切れそうになるときにそれを阻止しようとする行動を促進する。「私から離れないで」「私達の共同体を壊そうとすることは許さない」

 

共同体の中で手を抜くもの、他者に依存して楽をする者が1人でもいると、他の人も馬鹿らしくなり、感化され、そのような者が増えていく。そのような利己的な個体が増えると負担が残りのものに集中して共同体が崩壊する。共同体の崩壊が人間の生存の上で最大の脅威。

 

「妬み」によって集団の中で特異な人を検出し、排除行動するとドーパミンが脳内分泌されて快感が得られる。共同体を維持するために人間に備わった生理機能だと考えられている。

 

集団の中で「1人だけ得をしている人」に対して直接の利害関係にない他者が制裁を加えることは、本来は制裁を加える者が仕返しされるリスクや制裁によって直接的な便益が受けられないことを考えると不合理。それでも集団を維持すべく異分子排除の制裁を加えると脳内に快楽物質が分泌されるように人間はできている。

 

「誰かを叩く行為というのは、本質的にはその集団を守ろうとする行動」

 

「いじめ」は本能とそのような社会性、人間性に根差すがゆえに撲滅し難い。

 

「決めごとの多い夫婦ほど離婚しやすい傾向にある。二人で決めた「こうあるべき」からひとたび相手が逸脱すると、そうした相手を許してはならないという利他的懲罰の感情から逃れられなくなるから」と筆者は述べる。守らないあなたが悪いという攻撃材料に変化する。

 

コロンビア大学シーナ・アイエンガーの実験。24種類のジャムを並べた際の実際の購入率3%。6種類に選択肢を減らすと購買率は30%に上昇。「選択肢の多さが幸福度を下げる」「考えたくないけれども、間違いたくもない」結果の拒否。つねに「誰かに決めてほしい」願望。口コミ評価を盲信して購入する心理も説明できるのかもしれない。

 

サードウェーブ実験。高校でこのクラスだけの独自の厳しいルールを生徒に作らせる実験。細かい規律は思考を弱めた。クラスの成績は上昇し、連帯感は増し、生徒は自信を持ち、より厳しい新しい規律を求めた。自発的に他のクラスへ勧誘を始め、拒絶する相手に暴力的な反撃を加えるようになった。なぜドイツ人はアドルフ・ヒトラーを止められなかったのかという問いへの実践解答。

 

自己正当化できるとヒトはいくらでも攻撃的に、残虐になれる。善良とみなされていた大人でも、無垢な子供でも、分別のついた大学生でも。

 

自分とは関係のない第三者を叩く行為は「自分たちの社会を守ろう」という社会正義の姿をした情動に駆られて発動し、叩く行為が他者から承認されることで加速する。脳は承認してもらうことでドーパミンが大量に放出され。その快楽はセックスと同等かそれ以上だという。

 

最も効率が良い快楽は「匿名で誰かを叩いて、それが多くの人から賛同してもらえる」。まさしくネットバッシング。

 

 

以下、自分の疑問やら雑感。

弱者保護、多様性維持を含めた集団形成がヒトという種の生存戦略だと理解しているが、集団の中で一人だけ損をしている者を救う本能は、一人だけ得をしている者を炙り出して引き摺り下ろす本能に比べて非対称的に弱いのではないか。善行でドーパミンが大量放出されるようにはできていない、悲しいかな人類。

 

 

やはり最も避けるべきなのは単に変わり者だと思われる以上に「あいつは"分不相応に"得をしている」と思われることではないか。タダ乗り排除の本能や「正義」に基づいた攻撃性を惹起しやすい。匿名で攻撃されうる場に身を置くのは自殺行為。

 

 

妬みを回避するには、周囲から羨ましがられるような待遇や便益を得ているとしても、それを納得させられる努力や苦労も伝わるようにすることだろう。富や成功はひけらかさずに苦労してますアピール。日本的偉人がこうしてできるわけが。

 

薩摩 長州人のほうが実際にセロトニントランスミッターの少ないSS型の割合は多いのか?

 

職務規定を細かく明文化し、業績の悪い社員を随時排除していくことにも積極的なアメリカ企業。適当で曖昧で明文化されておらず、労働組合も強く雇用の守られた欧州系企業および日系企業。著者の説明はよく当てはまる。訴訟大国という観点から見てもアメリカは不寛容な社会と言えるのかもしれない。

 

承認欲求と不安感の強い日本人。セックスの頻度が低いことでも有名。シャーデンフロイデのメカニズムに則るならば、みんなもっとセックスすれば無関係な他人でしかない芸能人や有名人の不倫に目くじら立てることもなくなるのではないか。近代化する以前の日本が性に開放的だったのはある種の必然だったのか。

 

やはり細かくルールを規定することはデメリットが大きい。本質理解を妨げるだとか、思考停止に陥らせるというだけでなく人間性に基づいた利他的懲罰やら集団維持を正当化した攻撃的な行動を惹起してしまうわけだ。

 

英語でシャーデンフロイデに対応する単語はあるのだろうか。どうやら、英語でもシャーデンフロイデとそのまま使うらしい。フランス語ならありそうだけど、どうなのだろう。