パリから北へ210km。ノルマンディーのエトルタまで足を伸ばした。
昨年、映画「ダンケルク」を観たのを思い出す。第二次世界大戦時にフランスまで支援に向かっていたイギリス軍30万人がドイツ軍に包囲され壊滅の淵に追い込まれた。そこをチェンバレンに代わって首相に就いたチャーチルが指揮し、民間船800艘を総動員してフランスの北岸ダンケルクからイギリスへと兵を逃すというもの。
さらには今回の羽田からパリへの機中で「ダークアワー」というこれまたチェンバレン失脚からチャーチルがダンケルクからイギリス兵を救う「ダイナモ作戦」の完遂までの政治闘争を描いた良作を観た。
そうなるとノルマンディーから北にイギリス本土を望むこのエトルタの海岸は感慨深い。
エトルタはどちらかというとフランス人が来る場所で中国人や日本人旅行者は稀だそうだ。夏は海水浴客で賑わうが、冬は静かでのんびりとしている。
玉砂利の浜の両端は小高く切り立った断崖絶壁となっており、右手崖の上には教会がある。それが絵になるのだよな。
玉砂利を踏むとジャリジャリではなくチャリチャリ、カラカラと軽い音がする。なんだか日本のホームスーパーで売られている防犯砂利のような感触。
左手には「象の鼻」として有名な奇岩があり、その上まで登っていくことができる。
鋭角に切り落とされたかのような、ほんとに見事な断崖絶壁。側面に浮き出たミルフィーユのような地層の縞がなんとも綺麗。
この崖の上は自由に歩けて、しかも転落防止の柵が一切ない。自己責任。おかげで素晴らしい開放感。車で2時間をかけて来た甲斐があった。
足を滑らせると落ちて死ぬのが確実だと、案外みんな慎重になるものだな。突風がいつ吹くかわからない。
もし足を踏み外して崖下に落水したらどうなるのだろう。フランスだから見捨てることはないだろうが、やはり救急車が来るのだってとても時間がかかりそうだし、船を出して救出するのだって時間がかかりそうだ。死んでもやはり、仕方ないね、で済まされそうだ。
崖の上を散策した後は、目当ての生牡蠣。L'Huitriereという店名は直訳したら牡蠣屋。期待するしかない。
臭みのない甘みの感じられる牡蠣。しかし身はそこまで肥えてはいないか。パンチの効いた赤ワインヴィネガーと刻みエシャロットと合わせて食べたかったが、とても薄い赤ワインヴィネガーしかなかった。少しケチはつけてはみたものの、それでもやはり美味しい。
なんだかわからないが白身魚のムニエル。ガーリックソースがかかっていて香ばしく美味しい。こういう魚料理を自宅でも作りたい。まだ帰国したらブリはスーパーに並んでいるだろうか。
マンダリンが乗ったパイなのだが、見た目はそこそこだが、酸味と僅かな渋みも効いた絶品だった。フランスはデザートの外れが少ないな。日本人にとって甘すぎない一歩手前の甘さ。
同僚のチョコシューもなかなか魅力的。
食事を済ませて周辺を散策した。とあるレストランの窓。なんだか、共喰いな様相。コック帽の魚がフライパンで魚をグリルしている図。しかもこの魚の目の大きさは深海魚に近い。
真向かいには別のレストランに客としてテーブルをはさむカップルの魚が描かれている。悪ふざけが止まらない感じだね。
土産物屋を覗いてみる。鰐の頭骨、420€か。白くて綺麗な完全品だけど高いなあ。使い道もすんなり思いつかないし。そもそも、エトルタに鰐はいないしな。
鰐に比べたら35€なんて十分手が届くではないか。しかもポワソンクロコ、鰐魚と書いてあるし広義の意味で鰐だ。この状態で防腐処理加工もされているならば面白いかも。
完全に鰐の頭骨420€に基準が狂わされているだけだろうな。いや、でもこれが日本で欲しくなった際に35€で手に入るのだろうか。悩ましい。同僚に置いていかれそうになって仕方なく諦めた。
エトルタは同僚と一緒でなかったならばまず来ることのなかった観光地だと思う。大聖堂や石の構造物を回ってばかりになりがちなので、こういう景勝地も良い。
とても良い気分転換になった。