所沢といえばトトロの森、所沢サクラタウン、古民家民宿。さらには日本で初めての空港が作られた航空発祥の地でもあるらしい。
子供達を連れて埼玉のスミソニアン博物館こと、所沢航空記念館へ。私が勝手に名付けた。
私は常々「東洋のナイアガラ」だとかそういう表現をなんだかみっともないと感じている。袋田の滝でいいじゃないか。和製ビヨンセだとか、そんな名称を付けることがその個性を放棄して単なる下位互換の半端物だと宣言してしまっているように感じる。
そのくせ、所沢航空記念館に入ってまっさきに頭の中に浮かんだのは「埼玉のスミソニアン博物館」というフレーズだった。そうか、この手のネーミングは自然と湧いてくるものらしい。
いや、だってこの飛行機の空中展示はいかにもスミソニアン博物館を想起させやしないか。
アンリ・ファルマン機の展示なども素晴らしい。見下ろせる博物館の構造も良い。
二人乗りだったのだな。細い鉄骨に布の翼。墜落したら折れた鉄骨が凶器となって向かってくるに違いない。空の上での人間の脆弱さ、無防備さを身に沁みさせる。
写真に写るのは清水徳川家のボン、徳川好敏(よしとし)。清水徳川家は当時没落していたので実家の資産にものを言わせてフランスのアンリ・ファルマン飛行学校に派遣された訳ではないらしい。しかしフランス限定の操縦士免状しか持たない徳川好敏と違い、万国飛行免状を持ち操縦技術も教え方も遥かに秀でた滋野清武が気に食わなかったことから国外に追い出した逸話や(滋野はその後、第一次大戦でフランスのエースパイロットとして活躍してレジオンドヌール勲章を贈られる)、国内初飛行を同日に徳川好敏と果たし、天才発明家として名を馳せ飛行機設計もした日野熊蔵を差し置いて航空機畑の本流を歩んで出世し続けた徳川好敏をあまり好きになれない。実力は劣るのに血筋で厚遇され、その上でより実力の優れた同僚を押し退けたのはなんとも。
飾られている模型の精度が高くて素晴らしい。
絵になる、美術品の域。
ジオラマの臨場感も素晴らしい。えてして区立や市立の博物館のジオラマは人形が粗雑なことが多いのだがここのものは違う。
展示航空機も上から眺められるようになっている。こちらの黄色はノースアメリカンT-6G練習機。知識がないので戦前の陸軍機かと思った。
それにしてもメカは白黒がよく似合う。操縦席が2階にあるヘリ輸送機のゴツさが魅力的。最先端の糸蜻蛉みたいな軽ヘリコプターではなくこんな重ヘリコプターに乗ってみたい。
ガラス面積の広さとフレームの細さを思うと地上の歩兵からしたら格好の「的」なのだろう。着陸離陸の間のパイロットの心細さといったらない。
備え付けられた、椅子にも担架にも使える座席が生々しい。
エンジン。白黒で撮る甲斐のある素材筆頭といえる。精度を出すことが難しい陶器でこういうものを作ってみたい。
地上の状況を把握しやすいように足元まで透明な運転席。防御力を犠牲にした機能美。
尾翼とローターの造形など、なんだか掻き立てられるものがある。
令和のコンテキストで解釈すると「押せ」ということなのだろうけれども、昔のコンテキストを察すると昔なら押そうとしただけでぶん殴られるのだと思う。この「す」のくるりとしたフォントは一部フォントマニアには好みなのではないだろうか。
微妙な円の歪みに味がある。出っ張りを円の中心に据えてないのが気持ち悪いが期待全体のバランスからすると円の位置はこれが正しいのだろう。
単なる航空機の展示に留まらず体験型の施設もいろいろある。これは月面の1/6の重力や宇宙旅行して火星や土星の重力を体感できる装置。軽く地面を蹴っただけで大きく飛び上がれるのが楽しい。ほかに火星や木星の重力体験もできるプログラムもあったりと楽しい。
フライトシミュレーターもあって羽田航路、ハワイ航路など5コースを選べる。
翼の揚力の仕組みを学べる図解や装置も充実していた。
揚力の生まれる様だけでなく、一定以上角度がつきすぎると空気の渦が生まれて「揚力が剥がされる」現象を視覚的に学べる。
風洞実験装置も充実。
改めてT-6G機の翼を真横から見てみると揚力を生み出す翼の断面がよくわかる。
写真を撮っていて飽きない展示の数々。全く期待していなかった分、予想外の充実ぶりに楽しめた。
所沢はあれだけ「トトロの森」で観光アピールをしているのにこれだけ立派な航空記念館がありながら「紅の豚」のサヴォイアS.21試作戦闘飛行艇を展示しないのは勿体無い。何か機運はなかったものか。
大人500円、子供100円。