八日目の蝉

八日目の蝉という邦画を観た。
地上に出て七日間しか生きないという蝉。八日目の蝉は他の蝉が見られない八日目を見られて幸せなのか、はたまた孤独なのか。そんな感傷的なエピソードが出てくる。



そもそも世界中の蝉が同じ日に生まれる訳ではなかろうに。自らが地上に出て二日目に羽化した蝉、三日目の蝉もいるだろう。夏の間、一ヶ月近く蝉の鳴き声は続くではないか。やつらは一寸の迷いもなく八日目まで伴侶を探すだろう。しょうもない感傷的な擬人化だと思った。仮に季節の終わった後に生まれた蝉がいたとしても大勢の屍の中で懸命に鳴いて死んでいくと思う。



羽化しても奇形の羽が伸びず飛べない蝉がいた。幾年も地中で力を蓄えた末の残酷な結末。こいつも力尽きるか虫に襲われるか無惨に車に潰されるまで孤独だの寂寥だの感じずに足掻き続けるのではないか。ただそれを見る人間の心だけが痛む。


邦画そのものは良かった。不倫の挙げ句男に裏切られ子を堕胎し産めなくなった育ての母への、拉致され育てられた娘の葛藤と邂逅のお話。井上真央という女優の出演作品は観たことがなく、明るい快活な印象を持っていた。小池栄子然り。演技だとはわかっていてもわざとらしいと感じなかった。