昨年、脱皮の途中で力果てた蝉の亡骸を拾った。
何年も地中で過ごし、いざ出会いを求めて羽化し飛び立とうという盛夏に、何かが上手くいかなかった。地上に出たところを鳥に捕食されたわけでもない。亡骸が食われることもなく、見向きもされずに取り残されていた。何のために、と思わずにはいられない。
なんだか、ぐっとくるものがあって、後日、赤土を使って一回で一気に造形した。何か衝動に駆られて作る時には驚くほど早くできてしまう。そして焼き上がったものの、植えるべき株が見つからず半年以上も空の器だった。
ようやく、植わるものが見つかった。確か「月世界」と言っていたと思う。頭を落として芽吹かせた群生株ではなく、自然に分岐した歪な群生株。見つけた時に、ああ、これだ、と腑に落ちた。
この鉢にはこの株しかないだろう、と自分の中で揺るぎない執着のある組み合わせというものが数組かある。他の人がどう言おうとも、自己満足の極みにあるような奴だ。
ボコボコと子株が湧いてきている。亡骸の蝉を苗床にして形質を変えながら生が紡がれていく絵。
実は、このサボテンは根切りされたばかりでとても不安定な植込みとなっている。数年かけて根を蝉の胴体の上から下まで伸ばしてくれた暁には完全に鉢と一体化し、強風にもビクともしなくなってくれるだろう。それまで無事に育つかどうかは賭けだ。
サボテンの生育環境として考えれば土の量は少ないし、水持ちは悪いし、過酷な環境かもしれない。ただ、屋外で水遣りは辛めに辛めに育てられたというこの個体ならば適性はあると思う。
私の都合と理想の押し付けではある。それにもめげずに無事に根を伸ばしてほしい。
脱け殻の割れ目から湧いたように植え付けられた銀手毬は根付いてくれるだろうか。胴体から落ちてくる水分が最後まで底部に溜まるので根腐れが心配ではある。
上体の背中は白く滑らかにデフォルメしたのはやはり正解だったと思う。
心を鬼にして、2週間は水を遣らず、その後も月に2度。冬は完全断水。過保護にならないように育てねば。5年、10年を共にしてほしい期待の植木鉢と個体。