蟻の巣コロリに診る本性

蟻が家の中で出始めた。最初は数匹がちょろちょろと迷いこんだように這っていた。


翌日になると更に増えていて、辿っていくと風呂場のタイルの隙間から入り込んでいるのだとわかった。ガムテープで塞いでみた。


翌朝、嫁さんが絶叫。そこら中に蟻、蟻、蟻。ガムテープで塞ぐぐらいでは効果がなかった。蟻の顎の強さを舐めていた。蟻の巣コロリを買うことにした。


夜に帰宅すると早速設置された蟻の巣コロリを見せてくれた。新たに家に入り混んできた蟻は台所にも行かずに、蟻の巣コロリにかぶりついている。小さな透明な箱の中が黒く埋まっている。


更に数時間もすると周囲を這う蟻は目に見えて減り、更に数時間もすると蟻の巣コロリに群がっていた蟻も全て姿を消した。不気味なほどに。


その劇的な効果に戦慄した。何という設計思想だろう。目の前の蟻を撃退するのではなく、遅効性の劇薬を生きたまま巣に持ち帰らせ、我が家にまだ侵入していない蟻や子蟻も含めて皆殺しにする。念の為に可能性のある蟻も全て殺しておこう、と。どこかにある小さな蟻の巣の中には化学物質で大量殺戮された蟻の死体が幾千も重なり合っているのだろう。


人間に例えるなら、攻めて来た隣国の兵隊に表向きは恭順して食料を提供してもてなし、しかし実は遅効性の化学兵器相当の劇薬を食料に混入して置くと。目の前の敵を殺すに留まらず、敵兵の帰還先の兵隊ばかりでなく、女子供などの非戦闘員までも皆殺しにする。なんという容赦の無さ。石を投げて来た相手に散弾銃をぶっ放して即死させるぐらいの苛烈な百倍返し。


命に平等もくそもあったものじゃないな。残念ながら人間は蟻とは共存したがらないし、蟻の命など塵芥に等しく扱う。


蟻と人間では余りに極端に違うけれども、徐々に両者の関係を近づけて行った場合には対応はどう変わっていくのか。北米開拓民とインディアン、白人と黒人、ドイツ人とユダヤ人、日本人と中国人。百年やそこら前にも蟻よりも遥かに同質な相手にも似たようなことをして来た歴史がある。それだけ生来備えた排他主義は強いということか。子供達は誰に教わることもなく日本人しかいない学校の教室で僅かな振る舞いの違いを咎めて誰かを苛めるぐらいだからな。


理性を取り払えば人間の攻撃性の本性は蟻の巣コロリ。だとしたら恐ろしい。