映画「ムーンライト」「レヴェナント」「夜に生きる」

「Moon Light」☆なし

LaLaLandがアカデミー各賞を総なめにする勢いだった中で、作品賞受賞ということで観た。感情移入することもなく、あまり深い感情の動きを察することもできず、いつの間に映画は終わった。ゲイではないと同感しづらい孤独や悩みなのか。

 

物騒な街でいじめっ子に追われて隠れる子供を拾い面倒を見るドラッグディーラーのフアンの優しさは自分の生業への贖罪意識なのかなんなのか。整った居間も清潔そうなシーツも優しく気立てのよいガールフレンドもドラッグでの上がりで手に入れた余裕と考えると白々しくなる。どう死んだのか描かれずに終わったが、主人公シャロンが髭からピアスから亡きフアンの風貌を真似ている様から如何に慕っていたかがわかる。

 

フアンは碌でもない最期を迎えたようだが、フアンに比べてもシャロンはあまりにも孤独だ。

 

どうにもならなかったのだろう。そのどうにもならないやるせなさを描いている映画なのだと思う。

ムーンライト

ムーンライト

 

 

「Revenant」レヴェナント‐蘇りし者 ☆なし

熊に襲われ肉を割かれ、足先が正常ではない方向に曲がって折れたかのように描かれている。雪が降り氷が張る酷寒の地で水に濡れたままでいるだけで低体温症で死ぬだろうに。肉が腐り、蛆が湧いていたというのに。

 

熊の遭遇シーン、自然の描き方や殺し合いの撮り方にリアリティーを追及しているだけに、主人公の回復力の非現実さに興醒めしてしまった。瀕死の状態から1週間も経たぬうちに走るまでになるかね。熊に食われた手はしまいには傷跡もなく回復していた。野暮な突込みかもしれないが、そこらへんのリアリティーを見せたい作品ではないのか。

 

結局、長いだけで何を描きたかったのかもよくわからなかった。全ての状況をよそ目に自分の息子の仇を討つだけで終わった。あの時点で息子が残された主人公の全てだということはわかった。しかしそれまでに奪われた数々、とりわけ奥さんの仇は取らんのか。映像の雰囲気重視の陶酔感に溢れた作風は「シンレッドライン」を思い出した。

 

鑑賞後に思ったこと。それにしても白人に侵略される状況にありながら先住民族は部族間で争い続けていたのだな。

  

「Live By Night」夜に生きる☆☆☆

結局、評判のアカデミー賞受賞2作よりも面白く、感じることも多かったのがベンアフレック主演監督のこの娯楽作。禁酒法時代からその後までを生き抜くクライムドラマで「欲望のバージニア」を思い起させる。ベンアフレックが主演した「ザ・コンサルタント」といい、悪役を主人公に仕立てながらもその演技力と存在感でいつのまに観客を無理なく悪役側視点に立たせてしまう良作が続く。

 

清濁を併せ持たせた登場人物の数々が魅力的。ボストン警察署長を父に持つ主人公、街の治安とバランスの為にはギャングとの馴れ合いも必要悪と考えるテンパ警察署長、心のどこかが死んでいてその死んだ部分は結局もとには戻らなかったというボスの愛人。

 

エル・ファニング演じるロレッタが一番印象的。ハリウッドデビューを夢見てオーディションと騙されて売られ、その後、キリスト教に深く帰依して立ち直ったようにみえたものの結局はあのような結末を辿るのも信仰への虚しさを打ち消すことができなかったからか。

 

泥沼の対立抗争のなかで生き抜いていくも、誰もハッピーエンディングを迎えないギャングの世界の不毛さをわかりやすく描いてくれる。いつになっても映画好きは「ゴッドファーザー」の世界観が好きなのかも。 


足元の平凡でささやかな幸せを大事にしなければな、と思う。そしてどんなに綺麗事を言おうとも立ち直れない喪失というのもあるわけで、それらから守るのは自分自身しかいない。