日本より先に韓国には冬が来ている様子。最高気温7℃、最低気温-4℃。そんな寒さの中、氷雨のソウルを散策した。世界遺産にもなっているソウルの五王宮のうちの昌慶宮、昌徳宮へ。
街中で韓国はパステルカラー使いが多い。西洋的な「可愛さ」の模倣かと思っていたのだが、王宮の色使いを見るとパステルカラーは韓国で古くから好まれてきた色彩なのかもしれない。
気候が日本と近い韓国では植生も似ていて、この通り紅葉も美しい。
雨の中、人影もなく棄宮の佇まい。大人ならば容易に乗り越えられそうな壁の高さが平和な時代の王宮の造りだ。最初の宮殿は600年前の1419年に建造され、豊臣秀吉が攻めた折に消失した。日本の軍勢が焼き払ったのかと思ったが、実際は豊臣秀吉軍が入城する直前に民衆が略奪し放火したらしい。韓国人からしたら、日本のせいで焼失したことには変わらないだろうけれども。
黄色から朱色へと錦状に移ろう葉。
全体的に霞んだ抑制の効いた淡い色の中で鮮やかに引き立つ模様。
立ち入れない柵の中の紅葉の株元は赤一面だった。
扉の色は和名で言えば「水浅葱」あたりだろうか。
人工の建造物の色彩よりも植物の色の方が遥かに色彩が強いとは。
魔除守護の霊獣だろうか。とぼけた顔をしている。紫禁城の最高位に格の高い建物には十の像が乗るのだったっけ。
韓国の紅葉も以呂波のような切れ目の深い葉で葉脈が一際鮮やか。素晴らしい。
昌慶宮の玉座の背後の衝立に描かれた山と日月が気になる。京都の西陣に「松翠閣」という西陣織工芸美術館があって、そこにも見事な日月山水図の西陣織が展示されていたのを覚えている。閉鎖してしまっていたが、今年、あさぎ美術館として開館され展示されるらしい。
昌慶宮の池の片側にガラス宮を模した植民地時代に造られた温室がある。その中でも様々な植物が紅葉していた。
この流し込みのような赤と緑の滲んだ混ざり合いは見ていて飽きない。
錦木のような葉の鮮烈さ。
寒い季節に一際、目立っていたのは山茶花。
Camellia Sasanquaだそうだ。椿をCamellia Japonicaと命名した後、花弁がひらひらと散る椿に似た花はまとめて日本語のササンカを転用してしまったのか。
Sedum takeshimense。私の愛する多肉植物のセダムのようだが、竹島の名を冠してしまっている。さすがに学名は政治的理由では変えられないのか。日本ではタケシマキリンソウと呼ばれているやつだ。
こちらはCirsum nipponicum、和名はナンブアザミ。Cirsum japonicumだとノアザミのこと。いずれも日本の固有種ではなく、朝鮮半島や中国大陸でも自生しているらしい。昔は名付けに政治的な側面は無頓着だったのだな。その頃は植物学者は朝鮮半島にさほど目を向けなかったのだろうか。
日本にいると右傾化した報道ばかりで日本の植民地の名残は須く目の仇にされているかのように書かれているが、こうしてtakeshimenseなどと書かれた札が目立つ場所に置かれているところを見ると韓国は至って平和だ。
紅葉を愛でる文化も、建物も、日韓の美意識は多くの点で近いことが多い。それでいて明確な違いもあちらこちらに感じるからこそ、お互いに魅力にも感じやすいのではないかと思う。本来、もっともお互いの良さがわかる文化同士なのではないか。