益子といえば陶器。古くからの陶器の街で浜田庄司が移り住んでからは民藝で盛り返した益子焼き。今も作家が多く移り住み、春秋の陶器市には多くの陶器好きが集まる。本当ならば秋の益子陶器市に来たかったのだが、今年はコロナのせいで開催されない。
益子駅から城内坂を辿り、宿「古木」までを辿ってみる。
- ダントツのセンス、ギャラリー陶庫
- 登窯が見事な大誠窯
- 美意識の塊、浜田庄司邸
- 陶芸メッセのルーシー・リー代表作
- 夢広場の激安良品陶器作家
- 掘り出し物に出会える窯元共販センター
- 作陶合宿に最適な作陶古民家「古木」
駅前には何もないが、城内坂方向へと歩いていくと次第に雰囲気のある建物が増えてくる。
まずは城内坂入口付近にある陶器ギャラリーショップ「陶庫」。店建築の素晴らしさは益子一番なのではないかと思う。明治、大正、昭和それぞれの時代の建物が連結されており、内装や展示の仕方が素晴らしい。
木造家屋のほうには飾り棚や卓上に品よく器が並ぶ。
蔵は大谷石が使われたギャラリー。棚を置いてしまいそうなものだが、なんとも贅沢な並べ方。こういうのがセンスというやつなのだろうね。
益子らしい柿や糠青磁釉の作品達。しかも小皿800円、飯茶碗1500円とさほど高くない。
作品も空間も眼福。
向かいにあるもえぎ本店も人気の作家作品が入れ替わりで展示されるようでここも必見。
城内坂の坂途中を左折すると陶芸メッセ、わかりやすく言えば益子陶芸美術館があり、さらに浜田庄司邸がある。
「用の美」と称して普段使いの雑器に光を当てた民藝運動。しかし登窯を占有しこんな立派な邸宅で作陶した浜田庄司は庶民なんかではないわな。一回焼くごとに4、5tもの薪を使う登窯。それを生活の為の器の量産ではなく自らの表現の探究に使うなんて、お大尽な贅沢とも言える。
美しい、そしてなんともなんとも分厚い茅葺屋根。
板の蓋が嵌められているが、ここで轆轤仕事をしていたのだろうか。
座敷も静謐。良いものは古びても美しい。
我が家には和室がないけれども、趣味の和室を持ちたい。
折角ならば軸を掛けてくれたら良いのに。
トルコ青磁釉かと思いきや、日本にも糠青磁釉という伝統的な釉薬があった。糠白釉95%、酸化銅5%。この緑青色は典型的な銅の発色。今度、工房に取り寄せて使ってみようか。
陶芸メッセに移る。基本的に展示品は撮影不可のマークが付いていたので撮影していない。しかし、ルーシー・リーの作品にはついていなかったので撮影可と解釈させて頂いた。わからん。
みんな大好きルーシー・リー。花鳥画なら伊藤若冲、近代陶芸ならルーシー・リーというぐらい婦人画報あたりが好きそう。私の偏見だが。その代表作といえばピンクの象嵌線描の鉢とこの青に金が縁取った鉢ではないかと思う。この代表作はここ益子にあったのか。部屋に飾りたくなる万人が良さを感じられる作風。
腰から高台への曲線も、薄さも現代の感性によく合うのだと思う。
ピンクじゃなくても綺麗。そうだ、象嵌線描しよう。陶芸メッセにはもちろん浜田庄司や人間国宝島岡達三の作品などずらり。この人達の作品は真似る気が起きない。
城内坂に戻る。店と器販売店の展示の素晴らしさで一推しは大誠窯だろう。
何せ現役稼働の登窯がある。しかも惚れ惚れするほどに作業場が整理整頓されていて元工場勤務の身としてはとても好感が持てる。周囲に資材を乱雑に積み上げていたりするのはよろしくない。5S。
自分の器を一度は登窯に入れて焼いてみたい。
大誠窯の器は益子らしい民藝らしさも多分に残していてとてもセンスも良い。
店内に陳列される前の器達。作業場を客に常時見せられるぐらい整頓されているのは繰り返しでしつこいがとても感心する。
しかも、山羊がいて、鴨がいて、ひよこがいる。他の店に回る時間を削ってでも長く滞在してくまなくみる価値のある窯元。
陶器の窯元の街ならではの景観。
埴輪だらけの店があったり。
こうして飾るんですよ、というお手本があると購買意欲がそそられる。
城内坂を登り切って降り始めた夢広場にテント販売の店が6つほどある。
そのうちの一つ。このスープボウルと受皿のセットで1200円だと。思わず瞳孔が開いた。熱烈なファンがいるらしく、私が物欲しげに見てると、他の客が「ここの器、いいだろ」「この色と組み合わせは益子でもこの店しかないんだよ」「しかもまとめてそれなら1200円。安いだろう」「他で買う気しなくなっちゃうよ」などと、店主に代わって客が何故か私に売り込んでくる。
「さすがに上と下でそれぞれ1200円でしょ」と指摘してみたが、ボウルと受け皿で本当に1200円だった。
寡黙な主人に話しかけると「私が作って売っとるのよ。じゃなきゃこの値段では売れん」と仰ってたが自分で作ってるからと言って普通この値段では売れない。焼成費すら回収できているのだろうか。店舗も持たず、直売すればマージンも抜かれないから作品が人気で回転するならば成り立つのか。
この一輪挿し、なんと800円だそうだ。益子は恐ろしい。京都の五条坂陶器市なんてセミプロというか半アマチュアが仕損じ品のような器にまで2000円ぐらいの値をつけて売っていたのに。
益子焼窯元共販センターなるものがあって、広大な駐車場には大型バスが止まる。様々な窯元の器が一堂に帰す場所のようだ。
こういうところには、私の好みの器は無いことが多いのだが
あった。恐るべき益子。520円。安い。日常遣いに最適で、これぞ民藝という柿釉に糠青磁釉を十字に掛けたデザイン。名の知れた作家の数千円の作品である必要はない。そもそも、「用の美」を訴えた機能美溢れる、素朴さが売りの民藝の器が数万円の美術品に持ち上げられてしまったのはミイラ取りがミイラになったようなものだ。桐箱に入れた民藝の雑器など、存在矛盾とすら思う。民藝の器を使わずに飾って所有を自慢し合うようなものにしてしまったことを浜田庄司は、河井寛次郎は、柳宗悦はどう思っているのだろうか。
そして宿へ。駅から歩いて30分ほどの距離だが、店に立ち寄りながらで4時間ほどかかってようやく辿り着いた。
益子陶芸倶楽部の看板のかかる立派な門。
ここには薪窯、ガス窯、塩窯などがあり、大学生や趣味家の本格的な陶芸合宿によく利用されるそうだ。
宿泊棟の前にはピザ窯もあり、炊事場も完備。自炊もできる。浴室は現代的なスイッチ一つのシステムバス。
なんと、この日の客は私一人。8畳間が7つ、6畳間が2つはあったかと思う。68畳、独り占め。
こうして8畳間が連なっている。無論、廊下に面しているので部屋を突っ切る必要はない。
私は一番奥のおそらく最も格式の高い部屋をあてがわれた。使わないがコタツも完備。バスタオルも貸していただけた。
なんと、1泊素泊まり2600円。そこにさらに1000円のGo to travelクーポンがついてきたので差し引き1600円ということか。
全く虫がいないわけではないし、襖を隔てただけの隣室に鼾のうるさい客が泊まることもあるだろう。そういうのにおおらかな人にはお得な宿だ。
海外から1ヶ月ほど泊まり込んで陶芸に打ち込む人もいるらしい。ティミーさんという外国人の女性がいて、英語で教わることもできるとのこと。
一夜明け、朝の自転車散歩。
セイタカアワダチソウとススキの共演。
益子陶芸村という8つほどの店が集まった田んぼの中の一角に縄文土器風の陶器を売っている店があった。
縄文土器風の花器を作りたいと前から思っていたのだよね。非対称なアクの強いやつを。
帰途、下館駅で電車の待ち合わせに40分も間が開いたので駅から出た。近くの寺になんと陶聖、板谷波山の墓を発見。
駅前に戻るとセラミックミュージアムと称された陶板画も見つけた。
青木繁というチョイス。
裏には青木繁の最高傑作と呼ばれる「豊穣の海」があったのだが撮り忘れた。
帰り道も予想外な場所で陶器三昧だった。
作陶インスピレーション
- やはり自分は陶虫夏草をもっと作りたい
- 山羊鹿鉢も作りたい
- 牛の陶人形を作りたい
- 高根沢三郎さんのような心ゆくままの不思議な文様の器を作りたい
- シモヤユミコさんのような鎬を入れたい
- 糠青磁釉薬を使ってみたい
- バーナードリーチ風ピッチャーを作りたい
- 多肉鉢を入れ込める水盤を作りたい
- 縄文土器風の大鉢を作りたい
- 登窯で作品を焼いてみたい