都道府県魅力ランキング最下位の栃木県。陶芸の聖地、益子を一人旅。

ありがたいことに有給休暇を10月中に4日ほど取得しないといけないことになり、妻の許しも出たので一泊二日の一人旅に出ることにした。

 

御嶽山で一人キャンプ。下諏訪のゲストハウスに泊まって酒蔵巡り、温泉巡り、民藝に鰻。あれこれ頭に浮かぶ。滅多にない僥倖を最大限に活かすべく基準に据えたのが

・子供がいると楽しめない

・日帰りではしんどい距離

・一人でじっくり時間を費やせる対象

・財布に優しい

 

都道府県魅力度ランキングなるものが発表され、栃木県が最下位だそうだ。失礼な話だ。多くの人が知らないだけだろう。栃木には日光東照宮那須などの自然景勝地、鬼怒川や塩原を始め魅力的な温泉も多い。栃木はどうだろうかと考えてすぐに選択基準に当て嵌まる最適な目的地が浮かんだ。陶芸の聖地、益子があるではないか。

 

・陶器の店巡りなど幼稚園児がいたら危なくてしょうがない。割れた皿を買い取ることになる。

普通列車で3時間半。日帰りすると滞在時間があまり取れない。

・美術館、カフェ、ギャラリーショップ巡り。私の今後作りたい陶器作品に良い刺激が得られるかもしれない。

・便利な立地に素泊まり2600円の宿を見つけた。築260年の古民家宿。

これ以上のプランはないように思えてきた、一人益子旅。

 

益子で蒸気機関車

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新宿から湘南新宿ラインで小山、小山から下館、そして下館から真岡鐵道に乗り換えて益子を目指す。下館駅でやたら幼児連れが多いと思ったら、SLが目当てのようだった。C型が現役で走っているなんて素敵。

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3時間半、小説を読みながら電車に揺られて益子へ。駅から徒歩で宿を目指す。

 

益子で藍染布工芸

 

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特筆すべきは日下田藍染工房。江戸寛政の時代1789年創業の古い紺屋さん。建物が指定文化財になるのも納得の美麗茅葺屋根。

 

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中を覗くと72個の藍甕が並ぶ、惚れ惚れする光景。染色作業の真っ最中だった。

 

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藍染を目的として建てられた機能美が素晴らしい。

 

益子で虫標本

 

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お次は前後左右を陶器の店に囲まれる中で我が道をゆく「虫や」。ご主人が自らインドネシアなどへ飛び、採集してきた虫の標本が売られている。これまたご主人自ら木枠を作り標本箱に仕立て上げているのだそうだ。

「今年はコロナでインドネシアに行けなかったから在庫が補充できなくて困ってるよ」

「木枠を手作りしないとこの値段では出せないよね。」

「日本の玉虫とインドネシアの玉虫を見比べてご覧な」

「東京からも買いに来る人はけっこういるよ。」

 

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オオスズメバチを生きているかのように標本にした作品に目が釘付けになった。この距離でこの数のオオスズメバチと巣を見た日には死を覚悟するだろうね。

 

余談だが、日本蜜蜂は峰球を作るが西洋蜜蜂は作らないものだと思っていた。しかし西洋蜜蜂もすぐ学習して作れるようになるらしい。共通の祖先がすでに峰球を作っていたのだろうとのこと。

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宝石象虫のアクリル樹脂標本を買った。800円。値段の問題ではなく、欲しくともなかなか見つからない。

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上から下からネチネチと眺めて、次の作陶に活かせる。無駄なおもちゃではなくこれは参考資料だ。カラスアゲハ3500円、ルリオビアゲハ3000円などお宝がいっぱい。

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破格の値段で虫の標本が手に入る店がなぜか陶器の店が犇めく城内坂通りにある。別に益子に生まれたからといって陶器産業に就かないといけないこともあるめえ、俺は虫が好きなんだ。同調圧力に屈してたまるか。そう言わんばかりの「虫や」。

 

 

益子で日本酒を楽しむ

そしてGo To Travelの地域クーポンを使うのに最適な場所が外池酒造。陶器店ではクーポンを取り扱っていない店が多い。宿で自転車を借りて15分ほど片道を引き返し、益子駅の反対口へ。

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栃木のお酒は「惣誉」は知っていたが「燦爛」は初めて。しかも全国新酒品評会金賞蔵が益子の駅近くにあるなんて素敵すぎる。最近、海外の新しい賞が増えてきているが、世界酒蔵ランキング第4位だそうだ。調べてみるとこれはテニスのATPランキングに似たもので、全国新酒品評会金賞なら70ポイント、などと各種コンテストの賞が格付けによって点数化され、それを年間で合計したもの。どれだけ多くの賞を積み重ねられたかの総合点のようなものだ。1位が「作」の清水清三郎商店、2位が「蓬莱」の蔵、3位が「陸奥八仙」の蔵なので4位の価値は高い。「燦爛」をなぜ今まで知らなかったのだろう。

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木造家屋に煙突に倉庫。醸造タンクは近代化しているのだろうが、酒蔵の外見や建物は保存歴史建造物のように立派で清潔に手入れされていて見て楽しい。

 

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残念ながらコロナのせいで酒蔵見学は受け付けていないとのこと。幸い、併設カフェはやっているようなので、そちらで試飲させてもらうことに。

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全国新酒品評会金賞の大吟醸酒「燦爛」を5勺、ワイングラスで頂く。形容する努力をはなから放棄して「旨い」とだけ言っておく。

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何か酒のアテはありませんかね、と我儘を言ったら売物の鶏ささみの燻製ならあるということで、お言葉に甘えてそちらを購入し、切って出してもらった。もう少し飲みたくなり、大吟醸雫酒も頂く。こちらは「責め」をせずに袋から自重で滴らせた大吟醸酒。とりわけ不純物がなくスッキリとしていて、マスカットのような吟醸香

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昼から無料試飲、有料試飲の杯を重ねてかなり酩酊、幸せ。

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「望」という銘柄は販路をかなり絞った限定酒で蔵元ですら売ってないのだという。幸にして10月30日から池袋東武百貨店で販売するとのこと。ううむ、足を伸ばすか。

 

何を買って帰るか悩ましい。選んだのは「出す品評会で毎回何がしら受賞する、最近とても評判の良いお勧めのお酒です」と紹介してくださった純米吟醸酒。栃木県で作出された「夢ささら」という酒米を用いた酒。評判もよく、目新しさもある。そんな薦め方されたら、買ってしまうがな。飛良泉の丸飛のような味を勝手に想像している。

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益子でこだわり自家焙煎珈琲とアートを楽しむ

夜は1 1/2(イチトニブンノイチ)という自家焙煎珈琲屋へ。

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店内写真は撮っていない。推して図るべし。

店内は宝箱のよう。厳選に厳選を重ねた美術品や蒐集品がとてもセンスよく並べられている。陶器からアンティーク家具からアフリカ民藝まで様々な出自の品々が何故か調和されて並ぶ。

それでもって自家焙煎珈琲がとても美味しい。エルサルバドルキューバのシングルオリジンの珈琲をそれぞれ頂いたのだが初めての味だった。都内に増えているこの手の拘りの自家焙煎珈琲屋だと、酸味が強かったり、苦味が突出していたり、エッジが立ちすぎていると思うことが多い。それを通ぶっているというか、突き放した味にあまり好感を持てないのだよな。この店の珈琲はリラックスして身も心も委ねて味わえる美味しさというかなんというか。

マスターは饒舌な方で、お店の経営方針、理念を熱く語ってくださった。ランチプレートで忙しくお金を稼ぐのはやめて、あくまで珈琲に重心を置いてやっていると。「以前は21時までやってたけれども、コロナ後に営業時間を短くして売上も落ちると心配したけど、そこまで落ちないし閉店後に散歩する余裕もできたのが思いのほかよくてね」「人生において何を目的に店をやるかだよね」

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京都にもしばし行くようで寺町や新町、弘法市などの話で盛り上がった。

こんな感じの器が好きなんですと伝えると、「◯◯は店は大きいけど商業的量産品ばかりでつまらないと思うよ。」「小さいけど民芸店ましこはぜひ覗いてご覧」「益子は浜田庄司が有名だけれども天才と言えるのは加守田章二」「その息子さんの作品も良くてどうのこうの」とお勧めの陶器の店や作家さんなどの情報をあれこれ教えてくださった。ここのマスターのセンスは全面的に信用する。もうこの珈琲店を見たら納得。

 

ここまで、益子の核心的魅力とも言える陶器店や窯元には全く触れておらず。それにも関わらず記録しておきたい楽しみ方が沢山ある。益子は私には相当、楽しめる街のようだ。

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古い街なのでフォトジェニックな光景も多い。カメラを片手にぶらぶら歩きも楽しめる。

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陶器好き+蒸気機関車好き

陶器好き+藍染好き

陶器好き+虫好き

陶器好き+日本酒好き

陶器好き+珈琲好き

陶器好き+骨董好き

 

都道府県魅力ランキング最下位ですか、そうですか。人の評価に頼ると人生、損をする。