久しぶりの有形登録文化財の楼閣旅館最高。
渡り廊下はすべからく好き。
温泉に必要な要素は露天ではなく風。
湯の花の舞う白濁硫黄泉は掛け流し。
強羅駅徒歩3分の好立地。
ラフォーレ強羅に前回泊まり、この渡り廊下を潜り抜ける際に気になっていた太陽山荘に今回泊まってみた。
この楼閣や月見台のような上へ上へ重ねられていく木造建築が好きでたまらない。2007年に耐震基準に準拠するよう改築補強されているので安心。
しかも贅沢な設備はないが簡素にして清廉、調度品になかなかの美意識を感じられる。屋号の太陽を白抜きにした看板とその上の乳白色のガラスフード照明、その下の花。ふとした片隅の景色にも美を感じる。
3階の眺望の良い広間。
2方向に強羅の山々の景色が広がり素晴らしい。
そして旅館にあって欲しい広縁の向かい合ったローチェアセット。この部屋に泊まりたいのは山々だが通されたのはその下の階の眺望のない10畳間だった。
宿としては廊下や階段に空間を占有されてしまうのがしんどいところかもしれないが、私の好きな部分でもある。
遊郭的な楼閣の遊び心と派手さが控えめに散りばめられていて良い。
新しい目障りな素材を廃すのはかなり意識しないと難しい時代にあって、この眺めは100年前の人とさほど変わらないのではないか。
早速の風呂。誰もいないので撮らせていただいた。
窓が多く、全て開放されて網戸越しに風が入ってくる。
大浴場ではないけれど2度入るうち、他の客とは一度も鉢合わせなかった。
温泉も高温の湯が檜の樋を流れる間に僅かなれど空気にさらされ冷まされる。
湯は源泉掛け流しか。贅沢なことだ。湯の花が舞い、白濁した気持ちの良い硫黄泉。しかも比較的ぬるめにしてくださっていてこの夏の盛りには長湯できて最高だった。
角に腰掛けると双方から風が抜けていくので気持ちが良い。温泉に露天は欲しい要素だが天井がないことよりも風がより重要な要素だと思う。風が抜けるならば室内風呂でも温泉は十分に満足できる。
窓の外に瑞々しい草花が風にたなびくのも癒される。
洗い場も清潔で明るく気持ちが良かった。
それにしても館内のあちこちの造作や装飾がセンスがあるのだよな。そして物を極力置かない清々しさ。
私の自宅ももっと物を少なくしてふとした空間に花を活けたい。
洋室の待合室もあったり。
受付の近くのテーブル席には雑誌や新聞も置かれていた。
食事も豪華素材というものではないが素朴で美味しかった。
この椀も実に好み。民藝的な素朴でいて抑制的な華もある漆椀。
茄子の味噌田楽。
自然薯。
刺身蒟蒻など滋味のある品々。ああ、ところてんを食べたくなった。
日が暮れると旅館建築は一層ドラマチックに映える。この渡り廊下が道を跨ぐ構造が私はなんとも好きだ。
その渡り廊下には太陽山荘の文字が浮かび上がる。
強羅駅からも徒歩数分の距離。また今度は、今度こそは3階の部屋に泊まりに来たい。
朝風呂は6時から入ることができ浴室が男女入れ替えられる。こちらは半ドームの天井がガラスで朝には気持ちの良い陽射し。
朝食は献立としては変わり映えしないが鯵の開きも小鉢各種も美味しかった。箱根は小田原港が近いので海の幸も山の幸も恵まれている。
やちむんの陶器に千成り瓢箪。ふと目を止めた場所に素敵なあれこれがごちゃごちゃすることなく置かれている。これって私にはできないことで尊敬する。
アメニティが少ない。
部屋によっては共同トイレ。
冷蔵庫は部屋になく共同。
そういうのにこだわる人からしたらグレードの低い宿かもしれないが私が求める物を豊かに備えていた。
外国人のもてなしにも使えそう。
貸切露天風呂があればなお良い。
かなりの日本好き、公衆浴場も厭わない温泉好きならば連れてこられるかな。