郭公

家の近所を歩いていると、目の前を何かが落ちて、足元でクシャッと音を立てて潰れた。



潰れたのは小さな卵だった。風もない。見上げると桜の太い枝が見える。誰かがいたずらか嫌がらせで卵を投げたのかと思ったが、放物線を描くでもなく頭上から一直線に落ちてきた。桜の枝の上には誰もいない。


鶏卵でもない小さな潰れた卵を見て、これが命だったのかと思うと惨さを受け止められず、その場を数分間うろうろとしてしまった。


突然、桜の枝の上に動くものがあった。鳩かと思いきや、郭公。留守の巣に忍び込んで他の鳥の卵を落とし、代わりに自分の卵を産んで他の鳥に世話させるという「託卵」をする鳥。まさに他の鳥の卵を捨てた瞬間に出くわしてしまったらしい。酷い野郎だ。いや、雌か。


その後でテレビを見たら二股だか不倫だかを「大人の三角関係」だなどと阿呆なことをぬかすタレント女性が映っていてげんなり。自分を制すことができなかったとしても、開き直らずに罪悪感を持っていてほしいもんだ。よそ様の家庭を壊すのはどうあっても正当化されん。


しかし自然界に生きる郭公に人間の理屈を押し付けて非難するわけにもいかんしな。託卵は種の生存の為に本当に必要なのだろうか。母鳥に抱卵や子育ての能力は本当にないのだろうか、それとも効率性の名の下の怠慢なのだろうか。なんでこんな業深い習性を身につけてしまったのだろう、この鳥は。


調べてみると郭公は成鳥が変温性であり、卵も低温で孵化するなど多分に爬虫類の性格を残しているらしい。もともとが卵を産みっぱなしにして子育てをしない鳥だったようだが、託卵することで生存確率を上げてきたようだ。しかし今のような郭公の雛が自活できるとは思わないので、託卵するようになってから未成熟な雛で生まれても長いこと仮親に頼って成長できるように進化してきたのだろうか。