読書備忘録:blink 第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

The Power of Thinking Without Thinking 

原題の副題は「考えない思考力の威力」とでも訳すべきなのか。邦題の「「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい」は商業的な惹句が過ぎると思うし本著の趣旨と異なる。最初の2秒のなんとなくの威力とそれを有意義に使えるようにするために必要なことが書かれており、それは無条件に正しいわけではない。実際には「最初の2秒」の不適切な「なんとなく」に従った悲劇や惨状が例示されている。例)米国でカーチェイスの後に頻発した警察官の黒人射殺事件。

 

「適応性無意識」無意識化で一気に結論に達する脳の働き。人が活きていくうえで必要な大量のデータを瞬時になんとかして処理しようとする能力。

 

1983年9月に美術商ジャンフランコ・ベッチーナからJ.P.ゲッティ美術館に持ち込まれた古代ギリシャ像の真贋。14か月かけて美術館が弁護士や専門家を総動員して判断した本物であるとの結果と古代ギリシャ彫刻に関する世界的な権威たちがわずか2秒で一目見て得た「直感的な反発」に基づく異なる結論。この本は先端技術を駆使した真贋判定にも勝る2秒の直感の力を主題にしている。

 

「とっさの判断と第一印象だけでも、人は状況を的確に理解できるのだ。瞬時に下した判断も、慎重に時間をかけて下した結論と比べて、けっして見劣りしない。この事実に目を向けてもらうことが、本書の第一の目的である。」

「第1感を信じていい場合と信じて歯いけない場合を区別することは可能なのか。この疑問に答えるのが、本書の第二の目的だ。」

  

例1 

ジョン・ゴットマンは彼の心理研究所で3000組以上の夫婦の会話1時間分を自ら考案した感情分類で解析しその夫婦の15年後を95%の確率で予測できることを示した。

結婚が専門のセラピストや研究者、宗教関係のカウンセラー、臨床心理学を学ぶ大学院生、離婚経験者など200人に同じテープを見て判断してもらった全体の正解率は53.8%だった。

ゴットマンは離婚する夫婦のサインに注目した。結婚生活にはその夫婦だけのサインがあることを発見した。防衛、はぐらかし、批判、軽蔑、中でも軽蔑の感情が最も重要だと彼は考える。二人の関係に関して夫婦に話をしてもらい、その会話中での軽蔑の感情の発露を調べることで話している内容に関係なくその後の夫婦関係を高精度で予測した。

混乱を招くような無関係の情報に邪魔されずもっとも重要な「サイン」「筆跡」に注目すると短時間で精度高くものごとは判断できる。

 

例2 

医療過誤保険を売っている保険会社による、どういう医者が訴えられる可能性が高いかを調べた調査。医者が受けた教育や実績、過去に犯したミスの記録の分析よりも医者と患者の短い会話の分析のほうが正しい評価を下せる。医者が医療事故で訴えられるかどうかはミスの回数とは関係なく、患者が医者から個人的にどんな扱いを受けたかのほうが重要とのこと。さらに突き詰めると威圧感のある声の外科医は訴えられやすく、患者を気遣うような感じの外科医は訴えられなかった。教育、技術、経験は関係なかった。

  

 

顔の認識。

一度会わせた人の顔が同一かどうかを顔写真を見比べて判断させると高確率で正しく判断できる。顔の特徴を言語化して説明させると、その後面通しをした際に正解率は落ちる。何もしなければ問題なかったはずの顔を見分けるという能力が、顔の特徴を説明すると弱まる。言語による書き換えにより視覚的記憶(右脳)が左脳に追いやられてしまう。右脳的認識が優れている対象において言語化すると情報は劣化する。

 

感覚転移

セブンアップの缶のパッケージの緑色に黄色の割合を15%足すと、飲んだ人はラムやレモンの風味をより強く感じる。

ラビオリの缶詰めに平凡な親しみの持てる顔写真があると味の評価がプラスに働く。漫画風のイラストにすると評価は有意に下がる。

デルモンテが桃を瓶に詰めたら缶入りよりもおいしいという評価が出た。

目や記憶や想像力から得た感覚にも反応し、味の感覚に転移させる。ブラインドユーザーテストの通りにはならない。

 

革新的製品は市場調査になじまない

なじみのないこれまでと違う製品は当初、低い評価をうけることがある。例ハーマンミラーアーロンチェア。市場調査ではよくない製品となじみがないだけの製品の違いをとらえられない場合が多い。

 

論理的思考力が洞察力を損なう

情報過多が判断の邪魔をする

感覚的な評価はそれを言語化する訓練を受けていないとその他の視覚的、知識的評価に引き摺られることが多い。 

心拍数が175を超えるような状況下での直感は過つことが多い。

 

 結局は、

1)結果に最も寄与する徴候・シグナルをどう見出すか、

2)それを直感的に把握認識できる能力を鍛えられるか (付随してバイアスがかかる状況をどう避けるか)

このどちらも伴うことが必須で、どちらもできるかどうかはその人のセンス次第と片付けられてしまう気もする。