マンゴー殿急逝

備忘録として最愛のマンゴー殿との最期の数日を記録しておく。

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9月13日。朝から我が家の愛犬、マンゴー殿の呼吸が荒かった。心配になったので妻に動物病院に連れて行ってもらった。

重度の肺炎で肺癌の可能性もあるとのこと。おそらくもう少し前から兆候はあったのだろうが症状が目に見えて出たのがこの日なのだろう、と。取り敢えず何でも良いから食べさせて体力回復に努めること、抗生物質と消炎薬を与えること。

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家に連れ帰り、妻がササミをあげたら1本半食べたという。

 

普段ならば私の膝の上に幾らでも乗って寝続ける。大抵、私が移動したくて降ろしてしまう。しかしこの日は一旦は膝の上に座るものの、身体を丸めているのが苦しいらしく膝から降りて上を向いて喘いでいた。普段は至近距離で目を合わせると犬は視線をそらすのだが、この日は見つめてくる。苦しそうだ。

 

夜、私の横でマンゴー殿は寝たのだが呼吸が荒い。頭を撫でても身体を撫でても気休めにもならない。朝までが長い。

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9月14日。昨晩からずっと呼吸が荒く寝られていないようだった。私も2時まで寝られず、4時に目が覚めたが私が寝ている間も寝られていないのではないか。このまま体力を失い続けると致命的になると思えた。

朝一番で私が動物病院に連れて行き、獣医師さんと話した結果、酸素室を作ってそちらで休ませてもらえることになった。薬も経口よりも静脈注射の方が効くし、営業時間内は獣医師の目が届く。入院させることもできるが難点は夜、事態が急転した場合に対応できる獣医師が常駐できない。とはいえ自宅に連れ帰ると体力を削られるだけなので仕方ない。練馬区の遠くにあるERに連れて行くと夜も獣医師は常駐しているが数日で50〜70万円はかかるのではないかとのこと。取り敢えず、昼の間は動物病院の酸素室で療養してもらうことにした。

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薬が効いて肺炎が治るスピードが速いか、体力を失って肺炎が悪化していくスピードが速いかの勝負だという。この1ヶ月で体重が落ちていた。

 

夕方、獣医師さんに電話した。酸素室に入れて投薬するとしばらくして寝たという。寝られて良かった。ひたすら寝て体力を回復してもらいながら薬が効くのを待つしかない。翌日は動物病院は休業日だが、重症患者がいるので獣医師が出勤してくれるという。ありがたい。このまま近くの動物病院の酸素室で入院させてもらうことにした。

 

深夜、動物病院の前まで自転車で行き、1時間ほど座り込んだ。マンゴー頑張れと声を掛けたが聞こえたかはわからない。むしろ寝てて欲しい。

 

9月15日 朝、ジョギングで2回動物病院に立ち寄った。建物の外から見るだけだが、中で寝ていてくれることを祈り想いを馳せる。

 

12時ごろ、獣医師さんから妻に呼吸が苦しそうだけれども起きたり立ったりしていると電話連絡があった。

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2022年9月15日13:30 前触れなく心肺停止したという緊急電話が来た。急いで動物病院に向かうと13:37時点で獣医師さんと看護師さんが人工呼吸器に繋いで心臓マッサージをしているところだった。自律の呼吸も心拍も無いという。心肺停止してから20分経つと生還率は1%も無くなるという。現実味がない。

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舌が青くなっていた。身体から力が抜け、目は生きてるようだが反応がない。

 

昨日からの処置や投薬を獣医師さんが説明してくれた。肺炎の菌が歯から来ている可能性もあるので歯を磨いてくれたという。「酸素室の中で」と注意深く言葉を足すところに、獣医師の落ち度があったととられないように注意を払っている気苦労を感じた。経験豊富な獣医師さんに感謝しかないのだが。人工呼吸器を外し心臓マッサージを止める確認を私達にした。同意した。

 

練馬のERに連れて行っても出来たことも結果も変わらなかったのではないかとのこと。気休めでもありがたい慰めだ。

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心肺停止7分後のマンゴー殿の視界に私は映っただろうか。ここ数日は何を思っていたのか。

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力の抜けた身体は軽くて気の毒だった。

 

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後悔ばかりが思い浮かぶ。

もっと自然の中に連れて行ってあげれば良かった。

もっと好物の和梨やササミをあげれば良かった。

もっと毎日の散歩を長く連れて行ってあげれば良かった。

もっと撫でてやれば良かった。

もっと気の済むまで膝の上に乗せてあげれば良かった。

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14年一緒に暮らすと思い入れが強くなりすぎる。カブトムシや泥鰌のようにはいかない。

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2008年5月15日フィリピン、マニラ生まれ。ブリーダーの元での名前はチョロ。私がフィリピンの名産でかつ大好物の果物にちなんで「マンゴー」に改名。

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真っ白い毛並みのトイプードルの母親と真偽の疑わしいチャンピオンドッグの父親の子。ブリーダーに会いに行き数匹いる兄弟からこの子が良いとお願いして選んだ子なのだが、兄弟がそっくりすぎて後日引き渡された子が同じかはわからない。

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気立の良い子だった。

フィリピン生まれだからか、首と胴が長い小鹿のような体型だった。

吠えることは稀で大人しかった。

家具を齧ったりするようなことも皆無だった。

リードを離しても逃げるような犬ではなく、呼べば戻ってくる賢く信頼関係のある犬だった。

人間だけで旅行にいって家で留守番させられたり、散歩に行き忘れたり、私と同じ寝室で寝たいのに締め出されたりすると抗議の小便を床の上にするのがささやかな抵抗だった。

私が服を脱ぎっぱなしにすると決まってその上に寝転がった。

バーンと鉄砲を撃つ真似をすると腹を上にひっくり返り、そのまま腹を掻いてもらうのが好きだった。

鼻はあまり利かない犬だった。

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亡くなる前々日まで散歩して縄張りにマーキングしていた。もうあの匂いはこの界隈で嗅がれることがなくなってしまった。朝の散歩中、遠くから見かけると「あらマンゴーちゃん」と駆け寄ってくるおばちゃんが数人いる人気者だった。
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ここ7年、私は同じベッドでマンゴー殿と寝ていた。私の足元に寝ることが多かった。足で無意識にマンゴー殿を探してしまう。

部屋を移動する際も、後ろからついてくるマンゴー殿が入ってくるまでドアを開けたまま待ち、それから締めることが無意識に染み付いていた。ドアを開け、来ないマンゴー殿を待ってしまう。

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実感が湧かないし、悲しいという気がしない。ただ、ふとした瞬間に泣いてしまう。心あらずで勝手に涙が出る感じだ。身体レベルで悲しんでいるのか、心がマンゴー殿が亡くなったことを拒絶しているのか。動物病院から全速力で走って帰り、その後の電話会議では笑顔で雑談する自分がいた。

マンゴー殿を失った悲しみは他の人にはわからないだろうし、ペットを無くした人達はそれぞれがそれぞれの愛するペットを失った悲しみと向き合ったのだろうな。

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しんどい。化けて出てくれんかな。文句を言いに。