角川ミュージアムの中にある荒俣宏ワールド全開の「荒俣ワンダー秘宝館」。私がこれまで訪れたことのある秘宝館の中で群を抜いて満足度が高かった。お金を払う価値があると感じた初めての秘宝館と言っても良い。
バビルーサ!上顎の牙が鼻上を突き破り、伸び続けた牙はやがて脳天に突き刺さってそれが原因で死ぬ個体もいるという謎猪。
オオセンチコガネ120個体をグラデーションに並べた標本は圧巻だった。とりわけ瑠璃色の個体はルリコガネとも呼ばれ、奈良県春日大社の神鹿の糞に集まるという。採集日時や地名も明記された資料価値のある標本だ。そういえば鳩の巣渓谷でもかなり瑠璃色の個体を見た。
タブレット端末が置かれており、6種類のモードから他の生物にはどう視覚情報が認識されているのか疑似体験できるようになっていた。こちらは鳥類。
こちらは一般的な魚類。
そしてこちらが犬だという。確かに犬は色盲だと聞く。視野中央しかあまりピントも合っていない。他に馬なんかも面白かった。
モンハナシャコなんかの円偏光が見える視覚疑似体験装置なんかもあったらワクワクするな。
そして私が打ちのめされるほど感激したのがこちら。透明標本の大規模ディスプレイ。スマホではなくデジカメをもっていけばよかった。理想は一眼レフとマクロレンズを持参して嘗め尽くすように撮りたかった。
透明標本は小さなガラス容器に売られているのを目にするのが殆どだが、ここだとたくさんの標本が並べられている。
個体ごとの染まり具合の差も面白い。表皮の硬さやたんぱく質の量などで変わってくるらしい。
マトウダイのようなやつだろうか。
グソクムシ。光り輝いていた。
イイダコの一種か。
蛙。体長に比べて不自然なぐらいに背骨が太い。跳躍と着地の衝撃に耐える為だろうか。鼠や兎のように脚で飛んでクッションのように脚から着地したら不要だろうに。
亀も甲羅の縁模様が甘い。
ツノカメレオンも迫力ある。肋骨の腹部側だけが染まり方が異なる不思議。
鳥類など硬骨と軟骨が組み合わされると色が豊かになってさらに魅力的になる。食道が伸び縮みする蛇腹ゴムホースのようだ。
その一方で対極にあるようなウミグモ。生物の機能としてスカスカで淡く儚く見える。
そして再び対極のようなエイ。拡大するとクラクラする。いくら工芸作家が超絶技能を謳っても自然の造形美には永遠に叶わないと思わされる。
上から眺めて通り過ぎてしまう人が多いのだが、このディスプレイの面白味は横からの眺め。真上から標本的に平面的に眺めるのも美しいのだが横から見ると鏡面世界に閉じ込められた立体として眺めることができる。
シャコと言えばシャコパンチ。その超高速強打から水中真空波「キャビテーション」を起こし、強力な衝撃波が「ソノルミネッセンス」という発光現象まで起こして貝をも砕く。さらに全生物の中で唯一、円偏光を知覚するという謎の視力。もう、規格外生物すぎてワンダーすぎる。
超深海の団子虫、グソクムシ。ちなみに海洋大学の学園祭では素揚げを食べられる。染めるとこんなに宝石のような青一色になるとは知らなかった。欲しい。
蛙の関節も美しいことこの上なし。
ハコガメは全身が同じ色で染まっている。しかもピンク。
プレコか。宇宙
蛇。そろそろ関西だとハモの湯引き梅肉和えが美味しい季節。この骨を見ているとハモも丁寧に骨切りすることが如何に重要かがわかる。
シャコの前脚はえげつない。さらに尾ビレも凶器だというのだから。
こうして見渡すと鏡面に閉じ込められた異世界。
素晴らしい展示の工夫。
なんだかカッコよく飾られている三尾。右からマツカサウオ、ハリセンボン、左はなんだろう。
マッドサイエンティストな眺め。誰か、リュウグウノツカイを水揚げしたら是非透明標本の素材として寄付して欲しい。鹿の全身透明標本なんて夢だな。
グソクムシやシャコの透明標本などは販売されるとしても10万円以上はするのだろうな。それを家族に咎められずに自分の小遣いで買えるようになるにはもっと仕事を頑張らないといけないのだろう。さらに大金持ちになったら100万円で鹿の全身透明標本作りを注文したい。
このワンダー秘宝館をプロデュースした荒俣宏さんは著した「帝都物語」の印税1億5千万円を全て古書の蒐集に費やしたというのは有名な話。その帝都物語は角川文庫から発刊されているので角川書店にとっても荒俣さんはお抱え人気作家という縁か。荒俣さんはファンタジー小説の草分けで魔道、魔道士、召喚などいまや当たり前の言葉を造った人でもある。そして博物学の権威でもある。そんな人のおもちゃ箱のような自然史秘宝館。
もともと熱海の秘宝館、珍宝館のようなものを作ろうとして止められたそうだ。止めた人も偉い。