シテ島からルーブル周辺を散策し、パレ・ロワイヤルという旧王宮庭園に迷い込んだ。
ルーブル美術館の前の芝生にて。
そしてパレ・ロワイヤル庭園。ここでも写真を撮ったりして楽しんでいたのだが、ふと庭園の周囲に小さなギャラリーがあることに気付いた。
個展を開催しているアーティストBenjamin Seroussiは自分でアナログ写真を撮影し、それを大理石の板に印刷しているのだという。
大理石の縞模様が現れており、そこに彼の写真が重なっていて素晴らしい。
ライム岩のような岩は真っ直ぐに切ることが難しい脆い岩なのだそうだが氷裂釉のような結晶模様が入り人物の肌や衣服と重なると素晴らしい。
黒い小さな作品の値段を聞くとスタッフの若いお兄さんが手元のカタログを確認してthree thousand seventyという。3070€=54万円はどう背伸びしても今の私には無理だと思ったが記載を見ると370€とある。370の間違いかと聞くととても恥ずかしそうにしていた。申し訳ない。しかしこれが370€なら全く手の届かない作品というわけでもなさそうだ。
大きな作品は960€。これも写真そのものや大理石の縞模様の入り方も素晴らしいがいかんせん大理石なので相当に重い。しかも同じ写真を異なる板に何枚もプリントすることはしていないようで、同じ写真のサイズ違いなんてのも無い。とても魅力的だが断念。
私が気に入ったものは特にオニキスの縞模様が顕著でありつつ顔の描写を損なうことなく顔の表情も儚さや翳りも帯びて惹きつけられる。
オニキスの作品は470€。作家さんは幸にして英語が流暢で作品の説明をあれこれして下さった。この作品はオープニングにも出していなかった秘蔵作品でスタッフの1人のお気に入りで強い勧めもあって追加で今日、お披露目したばかりだという。モデルの名はJulie。ファッションデザイナーの友人だそうだ。
背景が黒の縁が粗い作品はノルウェーから取り寄せている石だそうで、触るだけでボロボロと剥離するほど脆いが素晴らしい結晶模様と透明感を持っていて気に入った素材なのだという。モデルの女性は友人で写真家でもあるのだという。友達でも、いや友達だからこそヌードを撮らせてくれる人なんて私には想像がつかないけれども、芸術のためなら応じてくれるのもフランスらしさなのか。まあ、私の場合は死んだ蟲の陶器作家になぜヌードが必要なのかと聞かれて終わるだけだろうけれども。
私も作品を制作しているという話へと膨らみ、私の作品を見せると興味を持ってくれた。なんと私の作品2つと交換でも良いと言ってくれた。フランスで売っているのか聞いてくる。今、1つだけあるよと一輪挿しを見せると「これはいいね。俺にはわかる。植物と組み合わせるのは良いコンセプトだ」と言ってくれた。cordycepsもわかるらしく、周囲のスタッフさんにフランス語で何やら説明してくれていた。
彼のinstagramを見せてもらうと映像監督となっていて芸術度の高い動画が並んでいる。本職フルタイムのアーティストだ。フランスでやっていける感性と技術の持ち主。
土曜日まで個展はやっているそうだ。私が本当に欲しいと思うならば展示せずに隠して取っておいてくれるともいう。
しかし本当に欲しいものは買うべきだと思っている。また後日買いに来るつもりで予定が狂って買えずに後悔したことは過去に何度もある。
改めて私が欲しい作品の値段を聞くと470€=82,000円。高い。安くはない。しかし作品は私にはその価値があると思うし買えない値段ではない。ここで困ったのがクレジットカード払いはできないという。私の財布の中には現金が300€しかないしキャッシングカードも持ってきていない。
先ほど、作品交換でも良いと言っていたのはリップサービスだとは理解している。ダメ元で私の手元にあるこの一輪挿しと300€ではどうかと聞いたら快諾してくれた。一輪挿しに170€=30,000円の価値を認めてくれたことになる。
彼は「これはもう俺のものなんだ」と周囲に言い、早速嬉々として水を汲み花を活けて飾った。
彼の作品が日本に行くのは初めてだという。私の作品がフランスに行くのも初めてだ。お互いにお互いの国での作品保有者1人目になったわけだ。
「次にパリに来る際には連絡してくれ。自分のアトリエに案内したいしもっと話せる。」と嬉しいお誘いの言葉もいただき、instagramの連絡先も交換して別れた。
私が一目惚れして欲しいと思う作品を制作するような感性と技術を持った人が私の作品を褒めてくれたというのがとても、とても嬉しい。私も作品を持参していることで途中から単なる客としてではなくお互いにアーティストとして話せたことで一気に距離感が縮まったと思う。
こういう在廊接客がしたい。
Benjamin Seroussi
www.benjaminseroussi.com