超絶技巧

晩に食事をした後、クルーズをしに河辺まで歩いた。



河岸では幾人かが珈琲色の水面を覗き込んでいる。気になって一緒になって見ていたのだが何も見えない。インド人の同僚と、首を傾げて不思議がっていると、3mはあろうかという先に網のついた竿をもった男が現れた。水面を覗き込んで、一瞬静止したかと思うと何の抵抗も無いかのようにすっと網を水に入れて引き揚げると網の中には魚が掬われていた。


男には何が見えていたのだろう。今の見たか、とインド人と顔を見合わせ、水面に何かを確かめようと食い入るように見つめたが、やはり珈琲色の濁った水面が見えるだけ。


阿呆面でいる私達の前で男は大きな亀を無言、無表情のまま自慢するように取り出した。大きい。


河のクルーズに乗り遅れるからと中国人同僚女性に急かされるようにその場を後にしたが、本音は電飾に輝く橋だの塔だのを船から眺めるより、この男をもっと見ていたかった。中国で時折出くわす凄まじい技能に唖然とする。