第二四半期 読書備忘録

深く心に刺さるような作品はなかった。娯楽小説ばかり選んでいるからだろう。

 

青い壺 ☆☆

無名の陶芸家が檜の廃材を譲り受け、父から受け継いだ産地の知らない土を用いて焼いた偶然にできた奇跡の青磁の壺。それが日本やスペインの人々の手を渡っていく。青い壺を手にした人の織り成す人間群像。50年以上前に死に目にも会えない覚悟で母を別れた修道女が老いた母と再会し打ちのめされた話が心に突き刺さる。美しい思い出を解凍してしまった。

同様に青く美しく発色した3つの器のうち2つを自ら砕いてしまう無名の陶芸家。その気持ちはわかる。

有吉佐和子の小説を初めて読んだが彼女はすばらしいストーリーテラーだ。他の作品も読んでみたい。ジョギングコース内の妙法寺に立派な彼女の墓がある。手を合わせにいこう。

 

水車小屋のネネ ☆☆

男に依存するシングルマザーの虐待から逃れるようにして小学生の妹を連れて家を出た姉妹の話。かと思いきや転々と視点を変え50年近い月日が紡がれる。水車の石臼の番をしているヨウムのネネを取り巻く人たちの物語。ヨウムは実際に抜群の記憶力を持つ鳥で人間の3歳児ほどの知能があると言われ記憶力テストではハーバード大学生何十人との勝負に勝ったほど。寿命も飼育下だと50年近くまで生きるらしい。

いろいろと恵まれない境遇の主人公たちが温かい人との出会いに恵まれ、支えられ、生きていく。そんな温かい人たちと出会えない不遇の中にいる人はどのようにこの小説を読むのだろうか。

 

 

おそろし三島屋変調百物語事始 ☆☆

火車」を彷彿とさせる宮部みゆきの時代劇ファンタジックミステリー。様々な身分制度、慣習などの縛りがある江戸時代のほうが悲劇も喜劇もよりドラマチックになりやすいのかもしれない。現代ならば「やろうと思えばやれるのにやらないのは本人の問題」と身も蓋もなく片付けれられてしまうことも多い。

 

鴨川ホルモー ☆☆

京都の鴨川の川原で「ホルモー」と絶叫したくなる京都になじみのある人には愉快な小説。瓶底眼鏡の素顔は美少女の女性が実は自分のことが好きだなんて言う中学生の妄想じみた設定はベタすぎるけれども。

 

静おばあちゃんと要介護探偵 ☆☆

常識人の元東京高裁判事の静と中部経済界の重鎮で車いす玄太郎のコンビが数々の事件を解決していく娯楽作。玄太郎が無法図でアクの強い老人として描かれるがその物事の本質を見通したかのような発言の数々は学びが多いし楽しみになる。シリーズ化するのだろうな、という娯楽作。

 

朽ちないサクラ 

映画化を見込んだような小説。「慈雨」のような著者の価値観や自問自答が反映されたような作品と違い、小説家として稼ぎにいっている作品のように感じてしまう。

 

成瀬は信じた道をいく ☆

破天荒さへのワクワクが前作よりもしぼんでしまったように思う。いつの間にか、小説の時代設定が2026年と現実を超えている。

 

正義の申し子 

前半はYoutuberと詐欺師のやりとりを通じて若い人の歪んだ承認欲求、嗜虐、嫉妬などを描き出していて不快だが時代を映しており気になる展開。後半はアニメのようなコミカルなアクションになって深みは四散してしまった。ヨットの一連の話は必要だったのだろうか。

 

夜明けのはざま ☆

家族葬専門葬儀社に努める女性。その仕事を快く思わない婚約者。女性が自分の仕事に誇りをもっていることはわかるが、理解を示した婚約者と折り合える道は模索できないものか、消化不良で終わった。好きな仕事を続けて一人で生きていくという開き直りのエンディングが悪いわけではないけれども、折り合わず譲らずにいたらそりゃ一人で生きていくしか無かろうよ。

 

北の狩人 ☆

小説版シティーハンターかと思った。

 

脳の闇 

過去の著書で既に紹介された学説ばかりで新しさはほとんどなく残念。著者を既婚者と知りながら「あなたの寂しさや苦悩は私だけはわかる」と執拗にアプローチしてきた男に対して自分でも思ってもいなかった心のうちを赤裸々に語っていたのは新鮮だ。メタに分析しているのがどこまでいっても研究者肌。

脳の闇