羽化の途中で果てた蝉を見かけて、なんとも、やるせなさに駆られた。モチーフにした陶鉢を作ろうと思ってるうちに日が経ったが雨の日の連休最終日、時間が取れた。
3時間でここまで作った。今日の赤土2号は買ったばかりのようで柔らかく、成形はしやすいがコシが弱く形が崩れがち。上にももう一体載せることを考えると胴を浮かせるのはリスクだが、地べたに平行に伸びた体躯はあまりにも蝉らしさがなくなってしまう。6本の脚でうまく支えられるように足掻いてみた。
単にリアルさを目指すだけだと、現物との差異だけに目がいってしまうし膨大な時間をかけた挙句、形状は現物に収束するだけだ。「わあ、リアル!」なものを作っても仕方がない。しかし現物から乖離しすぎると存在感が薄れてしまう。どこをデフォルメするかだ。
蝉はその離れた眼からどこかしらアノマロカリスを彷彿とさせる。前から見ると、どことなく剽軽な顔つきをしている。
土台の幼虫の腹は段差をつけた。翅にも翅脈をつけた。
残り2時間で上部を作る。白土で作ろうとしたが、疲れて粒子が不均衡化してボロボロな白土しかなかったので、やむなく赤2号で作り直す。
躯体が立ち上がっているので、前後に段腹を忠実に再現すると、そのリアリティにばかり目が向いてしまって不本意なものになる気がした。ここは敢えて、ツルツルに局面だけで見せようかと思う。背中の滑らかさとするりと脱皮して抜け出る印象を出したい。翅、眼、口吻だけを少しディテールを作り込み、それ以外はツルツルにして作り込みがウルサクならないように努めた。背中の曲線と白さの面積を見せるようにしたい。
上部を土台に結合する。上部の重量に下部の脚が歪まないか心配だったがどうやら耐えられそうだ。
徐々に乾かしながら、内側をヘラで削って可能な限り減量した。上体の胴を平たくしたいところだけれども強度が取れなくなるし、土を入れる容量がなくなる。ここは大胆にディフォルメして縦長に太くしてしまおう。
背中にはマミラリア系の白サボテンをボコボコと生やしたい。手頃さで考えれば姫春星か。緋牡丹錦のような毒々しい強い色でも面白そうではある。土台の割れた頭にも白サボテンの群生を植え込みたい。
土台は焼締にして、土肌にするのも良さそうだが、強度に不安が残る。かといってまたトルコ青結晶釉を全身に掛けるとくどくなりそうだ。ここはあえて柿渋で黒茶色に引き締めよう。
そして上体には白化粧土を塗った上でトルコ青結晶釉薬と白マットを塗りわける。羽化途中の無垢で柔らかい様子を形に留めたい。上部の3つの複眼だけ鉄赤で紅く発色させたい。
6時間の作業としてはまずまずか。集中して作り続けたのでどっと疲れた。
後から写真を見返すと粗が気になってくる。
- 眼の曲面が足らない
- 上部と下部を連結する管をつけたかったがもう遅い。太いと不格好だし細いと乾燥時に切れる。
- 背中の割れ始めを曲線ではなくV字にしたいが乾燥時、焼成時に亀裂が入っていく恐れもある。悩ましい。
- 翅か乾燥時に剥離落下しそう。
- 上部が下部よりも体躯が一回り大きい。寸法を厳密に合わせた方が良かったのだろうか。
- 乾燥して縮み、施釉して色がつくと印象はまた変わると思われる。